<概要>
●コロナによる長期休校に対応するための「9月入学」には賛否両論
●政府は教員の加配や、授業の次年度への繰越で対応
●不足する授業時間を補う第一候補は「夏休みの短縮」
●まずは不足する授業時間の正確な把握が第一歩
●夏休み短縮や土曜授業、7時間授業など各地の対応事例
●夏休み短縮に欠かせないエアコン設置
<チェックポイント>
●コロナにより不足する授業時間とその解消策
●年度内に遅れを解消できない場合の対応
●夏休み短縮に向けたエアコン設置
<掲載事例>
●奈良県、新潟県、山梨県、岡山県、徳島県、沖縄県、愛媛県
●宮城県仙台市、福岡県福岡市
●長野県飯田市、徳島県徳島市、静岡県沼津市
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コロナ長期休校により浮上した「9月入学」
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●総理が9月入学の検討を開始
・コロナによる休校の長期化を受けて、2020年4月末に総理が「9月入学」の検討を表明。
・地域により休校の期間やオンライン教育の取り組みに差があり、9月入学で仕切り直すことで地域格差を払拭する狙い。
・欧米や中国では9月入学が主流で、留学生の往来がスムーズになるメリットもある。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020043001359&g=pol
・5月10日の世論調査では、9月入学に賛成が56%で反対の32%を上回った。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58922150Q0A510C2PE8000/
●教員不足や待機児童など9月入学の課題
・9月入学に一斉に移行すると、その年の新入生は1.4倍になり、進学や就職で競争が激化する。
・一方で教員は2万8千人不足して、保育所では卒園の後ろ倒しを受け26万5千人の待機児童が発生。
・5年かけて段階的に移行すれば教員の不足は1500人に抑えられるが、待機児童は5年間で計46万8千人まで拡大。
https://www.sankei.com/life/news/200525/lif2005250006-n1.html
・日本教育学会も「9月入学への移行にかかる費用を、教職員の増員やIT環境の整備に回すべき」と大臣に提言。
https://www.asahi.com/articles/ASN5Q7DQ6N5QUTIL01N.html
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授業の遅れを取り戻す政府の対応
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●文科省は学習遅れを複数年度で解消することを認める
・文部科学省は5月15日、コロナによる休校長期化で生じた学習の遅れについて、複数年度で解消することを認める通知。
・今年度に予定していたカリキュラムを終えられないことが見込まれる場合、次年度以降に教えてもよいとした。
・文部科学大臣は「夏休みをなくしたり土曜日をフルで使ったりして数字の積み上げだけを目指すべきではない」と述べた。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020051500357&g=soc
●小6と中3のために3100人の教員を加配
・一方で、政府は第2次補正予算で、公立小中学校に教員3100人を加配する方針。
・分散登校で学級を二つに分ける際の指導にあて、次年度への学習繰り越しができない小6と中3の授業時間を確保する。
・夏休みや放課後の補習などにあたる学習指導員6万1200人、スクール・サポート・スタッフ2万600人も追加配置する。
https://mainichi.jp/articles/20200526/k00/00m/040/209000c
●高校入試への影響について配慮を求める通知
・文部科学省は高校入試について、各地域の実情に応じて出題範囲などに配慮をするよう都道府県教育委員会に通知。
・奈良県教委は、市町村教委や中学校長に出題範囲を減らすべきかを問うアンケートを実施して6月に方針を決める。
https://www.sankei.com/life/news/200525/lif2005250014-n1.html
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「夏休みの短縮」が遅れ解消の第一候補
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●保護者の6割以上が「夏休みの短縮」を希望
・不足した授業時間の補完方法として、特別警戒都道府県に住む保護者の67.1%が「夏休みの短縮」を希望。
・ついで、「土曜日の授業拡大」47.0%、「オンライン授業の実施やICTを活用した補習」33.4%と続き、 「9月入学」を希望する保護者は29.6%に、「学習内容の削減」は9.1%
・オンライン授業を学校から提供された経験は20.0%、民間教育機関(学習塾)から提供された経験は19.5%と大差なし。
https://resemom.jp/article/2020/05/25/56398.html
●自治体の半数超が「夏休みの短縮」を検討
・都道府県、県庁所在市、政令市、東京23区のうち半数超が「夏休み短縮」で学習の遅れを取り戻すことを検討。
・次いで、「修学旅行など学校行事の縮小」(49%)、「土曜授業の実施・拡充」(28%)だった。
・運動会、社会科見学、学芸会や合唱コンクールなど、学校生活に欠かせない活動にも大きな影響が出る可能性。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20200429-OYT1T50094/
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まずは不足する授業時間の正確な把握
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●新潟県は学習遅れを87時間と推計
・コロナ感染防止のための臨時休校によって、新潟県内の小中学校で授業数にして平均87時間ほど学習の遅れが生じていることが判明。
・新潟県の公立小中学校の大半は、4月中旬以降に臨時休校し、5月の大型連休明けから一部授業を再開している。
・昨年度の未履修分については、家庭学習の課題を評価するなどの対応で、解消が進んでいる。
https://www.niigata-nippo.co.jp/news/national/20200523545187.html
●山梨県も必要な授業時間を試算
・山梨県教育委員会は、小学校で8日、中学校で10日程度夏休みを減らすことで必要な授業時間を確保できると試算。
・総合的な学習の時間や音楽や体育といった実技科目、学校行事などの一部を削減する。
・県教育委員会はこの試算を市町村などの教育委員会に示し、地域や学校の事情に応じて柔軟な対応を求める。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kofu/20200521/1040009744.html
●長野県飯田市は4週間の遅れのうち2週間を夏休み短縮で対応
・1学期の終業式は8月3~7日、2学期の始業式は同17~21日に開く。
・休校で実質4週間分ほどの学習の遅れが出ており、夏休み短縮で2週間分ほどの授業時間を確保する考え。
・残りの授業時間については行事の見直しなどで対応する。
https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200517/KT200516ATI090001000.php
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夏休み短縮や土曜授業、7時間授業など各地の対応
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●夏休みは9日間(岡山県)
・岡山県教委は、中高の今年の夏休みを当初予定の43日間から9日間に短縮すると発表。
・中高では休校で必要な授業日が26日間不足しているが、夏休み短縮で24日分は取り戻せる。
・残りの2日間は各校の判断で行う土曜日授業などで補う。
https://www.sanyonews.jp/article/1014823
●夏休みはお盆期間だけ(徳島県、徳島市)
・県立高校の夏休みは「お盆期間」に限るなど日数を大幅に短縮し、土曜授業も検討する。
・徳島市は7月27日~8月7日と8月17~28日の平日に計20日間の授業日を設け、給食も実施する。
https://www.asahi.com/articles/ASN5H76RYN5HPTLC007.html
●夏休みは10日間(静岡県沼津市)
・静岡県沼津市は小中学校の夏休みを大幅に短縮し、8月8日からの10日間にすると発表。
https://www.news24.jp/nnn/news88015235.html
●夏休みは10日間(沖縄県)
・沖縄県内29市町村が小中学校の夏休みの短縮期間を10日から2週間程度に決定。
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1126897.html
●夏休みを11日間に(宮城県仙台市)
・宮城県仙台市は小中学校の夏休みを8月8日〜18日の11日間にすると発表。
https://nc.ox-tv.co.jp/news/detail/4029/
●土曜授業を月に数回実施(福岡県福岡市)
・福岡市教育委員会は土曜授業を例年の年4回程度から月数回に拡大する方針。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/606538/
●1日7時間授業を県内自治体に求める(愛媛県)
・愛媛県教育委員会は、1日7時間授業を実施すれば、不足する授業のコマ数をカバーできるという見解。
・7時間授業の実施が難しい場合は、夏休みの短縮や土曜日授業などを検討するよう市町村に求める。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200519-00000007-ebc-l38
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エビデンス(科学的根拠)に基づく教育政策と対策を
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●休校は大学の成績や生涯賃金にまで影響を与える
・「エビデンスに基づく教育」の専門家が、自民党の部会でコロナ休校の影響を指摘。
・教育が2〜3ヶ月欠けると大学の成績まで低下し、賃金も1.9〜3.2%下がった海外の事例がある。
・現在議論されている9月入学は、入学がさらに半年遅れ、欧米からは1歳遅れになるので国際標準とは異なる。
・夏休みの短縮でも授業時間の確保はできるが、学期中の気温が1.8度上昇すると1年間の学習量を1%失う。
https://www.fnn.jp/articles/-/43977
●夏休み短縮に欠かせないエアコン設置
・2019年9月時点で、小中学校・幼稚園等の普通教室のうち冷房が設置されていた部屋は78.4%
・2020年3月末までには普通教室の9割に冷房が設置されている見込み。
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/09/1421285.htm
・仙台市議会では、6割の小学校でエアコン設置が6月末までに完了しないことが問題に。
https://sp.kahoku.co.jp/tohokunews/202005/20200522_11008.html
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チェックポイント詳細
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●コロナにより不足する授業時間とその解消策
・公立校における事業時間の不足数は何時間か。
・夏休みの短縮、土曜授業、7時間授業など、どのような手法で解消するか。
・学校行事の削減を行う場合、どの行事を対象にするか。
●年度内に遅れを解消できない場合の対応
・授業内容の一部を次年度に繰り越す可能性はあるか。
・どの程度の教員を加配すると、小6と中3が年度内に授業を終えられるか。
・高校入試の出題範囲を狭める検討は行っているか。
●夏休み短縮に向けたエアコン設置
・公立校の普通教室におけるエアコン設置率は何%か。
・エアコンを設置できない教室では、どのように学習環境を整えるか。
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さらなる調査のためのリンク集
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「9月入学・始業制」に関する提言書(日本教育学会)
http://www.jera.jp/20200522-1/
【教育】現状は違法?ネットの遠隔授業や授業動画で教育の提供を(政策立案メルマガ)
https://policy-making.com/db/5623/