【農林水産】GI、地域団体商標、GAP・・・地域特産品のブランド保護(事例研究)

<概要>

●地理的表示(GI)法施行から5年が経ち、登録抹消や地域対立なども

●地理的表示は品質特性とその維持管理まで登録要件に含まれる

●2019年2月に日欧EPAが発効し、日本側48産品のGIが欧州で保護されるように

●グローバルGAPやアジアGAPの認証を受ければ輸出取引が容易になる

●GIやGAPの登録認証費用を補助する自治体も

●ブランド保護だけでなく、認知度アップや販促の支援が必要

<チェックポイント>

●自治体内の産品の現状

●GI、地域団体商標、GAPの取得状況

●生産者の育成と生産技術の継承

<掲載事例>

●愛知県、福岡県、鳥取県

●愛知県西尾市、福井県鯖江市、山口県岩国市

▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

━━━━━━━━━━━━━━━━━━
5年目で課題が噴き出す地理的表示(GI)制度
━━━━━━━━━━━━━━━━━━

●「メリットがない」と生産者側が登録を抹消

・地域の農林水産物や食品をブランドとして保護する地理的表示(GI)保護制度で、
農水省は2020年2月3日、「西尾の抹茶」を全国で初めて地元要請により登録抹消。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55679890V10C20A2CR0000/

・手間のかかる伝統的な製法を続けてブランドを守り、高級路線を維持するより、
生産コストを下げて安価で拡販する必要があると生産団体が判断。

・1キロ3千円の高級品しか「西尾の抹茶」と名乗れなかったが、今後は安価な製法で「西尾の抹茶」として販売する。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020020100202&g=eco

●GI登録めぐり生産者が対立

・愛知県では2018年から、「八丁味噌」のGI登録をめぐってみそ業者が対立している。

・農林水産省は愛知県内全域の生産者に八丁味噌の名称表示を認めたが、老舗2社が異議。

・両者が対立している間に、中国では現地法人が「八丁」を商標登録してしまった。

https://www.sankei.com/region/news/180219/rgn1802190053-n1.html

・ブランドが地域全体の財産だという基本的な考え方が置き去りになっている。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020021401110&g=eco

━━━━━━━━━━━━━━━━━━
地理的表示(GI)制度と地域団体商標
━━━━━━━━━━━━━━━━━━

●地理的表示(GI)保護制度とは

・地理的表示とは、「夕張メロン」のように名称から産地が分かり、品質や評価が産地と結びついたもの。

・地理的表示と品質基準を生産・加工業者の団体が登録申請し、農水省の審査後に「GIマーク」が使用できる。

・登録を受けた団体は、登録基準に従って品質管理を行うので、品質基準を守った産品だけが市場に流通。

・地域の生産者は、既存の登録団体の加入することで地理的表示を使用できる。

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/

●地域団体商標との違い

・地域団体商標は登録した団体が独占使用できるが、地理的表示は地域全体の共有財産になる。

・地理的表示は生産地と結びついた品質特性があり、その品質がしっかり維持管理されていることも要件。

・地理的表示は不正使用を行政が取り締まるので、生産者は訴訟の負担なくブランドを守ることができる。

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/document/t_dantai_syouhyou/t_dantai_syouhyou.pdf

━━━━━━━━━━━━━━━━━━
海外進出に有利な地理的表示とGAP認証
━━━━━━━━━━━━━━━━━━

●海外における地理的表示の保護

・2018年11月には、日本とEUの経済連携協定(EPA)に伴い、地理的表示法の保護が強化された。

・日欧EPAが発効すると、日本のGIは欧州で一括保護されて、農林水産物や加工食品の輸出拡大も期待できる。

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO37883980W8A111C1EA1000/

・2019年2月に日欧EPAが発効し、日本側48産品、EU側71産品のGIについて相互保護が始まった。

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/outline/attach/pdf/index-203.pdf
(17〜18ページ)

・イタリアのパルマハムは、相互保護より前に日本で独自にGI登録するなど、海外で積極的にブランド保護に取り組む。

http://parmaham.org/areastampa/news-comunicati-2291

●世界標準の農業生産工程管理「GAP」

・GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、農業において、
食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組。

・世界の主要な食品企業からなるGSFI(Global Food Safety Initiative)が承認するGAPの認証が無ければ、
欧米の食品小売・製造事業者と取引できない流れになりつつある。

・先行していた「グローバルGAP」に続いて、2018年11月には日本発の「アジアGAP」がGSFIの承認を得た。

・グローバルGAPやアジアGAPの認証を受けた農場や食品事業者は、
自社の食品安全管理が国際的水準にあることを対外的に示せて、輸出取引も容易になる。

https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/g_summary/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━
自治体の取り組み事例
━━━━━━━━━━━━━━━━━━

●行政が事務局となって全国初の伝統野菜GI登録(福井県鯖江市)

・GI制度の存在を知った農林政策課の職員が、伝統野菜栽培研究会の農家有志にGI登録を勧めた。

・農林政策課が事務局となってGI申請し、2016年7月に「吉川ナス」が伝統野菜としては全国初のGI登録。

・一時は市内1軒のみとなった生産農家も 、GI取得後は新規会員が増え、出荷数量や売上金額も倍増。

・行政は都内でのPR活動や販売イベントだけでなく、苗の委託生産や出荷時の品質検査費用も全て補助。

https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/1812/chosa02.html

●地理的表示・地域団体商標・GAP認証の登録費用を補助(山口県岩国市)

・市の特産品の付加価値を高めるため、市内に事業所を有する企業・団体のブランド強化費用を1/2助成。

・地理的表示と地域団体商標の出願登録費用と、事前の講習会や視察費用などが対象。

・HACCP認証とGAP認証の出願登録費用や、そのための施設・設備の修繕改修費まで助成。

https://www.city.iwakuni.lg.jp/soshiki/38/27968.html

●ブランド強化支援だけでなくIoT栽培支援システムも開発(福岡県)

・GI登録だけでは知名度不足だった八女茶を、福岡県が大川家具とのコラボで首都圏や海外にPR。

https://www.sankei.com/region/news/180302/rgn1803020003-n1.html

・生産者や関係団体と一緒に作ったロゴを、県が商標登録してブランド保護。

https://www.jacom.or.jp/noukyo/news/2020/02/200214-40363.php

・経験や勘に頼らない栽培技術を確立するため、県がカメラや温度センサー等のIoT機器を活用して、
栽培技術のデータ化とマニュアル化を進めている。

https://www.iot.systemforest.com/case/005yametea/

●積極的にGI登録と販促を支援し、スイカの販売額が日本一に(鳥取県)

・県内の農産物のGI登録に向けて、説明会や農水省に対する要望など積極的に取り組む。

・GI登録産品の販促資材や店頭試食など、消費者に直接PRする経費を県が1/2補助。

http://db.pref.tottori.jp/yosan/29Yosan_YoukyuuJoukyouKoukai.nsf/0866da31d153d9d9492574810035b068/50091b7396f78bca492580bf002a111d?OpenDocument

・2019年6月に大栄西瓜がGI登録され、JA鳥取中央のスイカ販売額が全国1位に。

https://news.line.me/issue/oa-sanin-chuo/12e29278a907

▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

━━━━━━━━━━━━━━━━━━
チェックポイント詳細
━━━━━━━━━━━━━━━━━━

●自治体内の産品の現状

・自治体内の産品の販売数量・販売額の推移はどうか。

・首都圏や海外での販売実績や認知度はどうか。

・認知度を高めるために、自治体としてどのような支援をしているか。

●GI、地域団体商標、GAPの取得状況

・自治体内の産品で、GI、地域団体商標、GAPを取得しているものはあるか。

・GI、地域団体商標、GAPの取得予定や検討中の産品はあるか。

・自治体として、積極的に取得支援をすべきではないか。

・地元産品のブランド化やブランド保護を、どのように支援するか。

・地元産品の海外展開について、どのように考えているか。

●生産者の育成と生産技術の継承

・地元産品の生産者数や平均年齢の推移はどうか。

・経験や勘に頼っていた生産技術をどのように標準化するか。

・IoTやAIなどにより生産技術のデータ化・マニュアル化を進めてはどうか。

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
さらなる調査のためのリンク集
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

地理的表示法について(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/outline/attach/pdf/index-203.pdf

GIサポートデスク(農林水産省の補助事業)
http://www.fmric.or.jp/gidesk/

海外展開戦略(農業・食品)
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokkyo/food_value_chain/attach/pdf/infra-1.pdf

農林水産物・食品の輸出促進対策
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/

農林水産物・食品の輸出に関する統計情報
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_info/zisseki.html

おすすめ記事