【農業】生産緑地の2022年問題、緑地保全に向けた国と地方の取り組み(事例研究)

<概要>

●税制優遇の受けられる生産緑地制度

●生産緑地の2022年問題とは

●特定生産緑地制度で指定を延長できるよう法改正

●都道府県は生産緑地の買取り支援で緑地を保全

●都市型の農業公園や農園付き公園の事例

<チェックポイント>

●特定生産緑地への移行支援

●自治体による生産緑地の買取り

●遊休農地や自治体が買い取った農地の活用

<掲載事例>

●東京都

●神奈川県横浜市

●東京都府中市、埼玉県川越市

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税制優遇の受けられる生産緑地制度
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●生産緑地の制度により、都市部の農地を保全

・生産緑地制度とは、市街化区域内で公共施設等の敷地として適している500㎡以上の農地を都市計画に定め、都市農地の計画的な保全を図るもの。

・固定資産税が宅地並み課税から農地課税へと優遇を受け、およそ1/100の課税額で済むことから、多くの都市農地が制度を活用した。

https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/nouchi_seido/pdf/hoyuu_zeisei.pdf

・相続税についても納税猶予が認められ、その相続人が終身営農した場合は免除を受けられる。

・一方、建設行為の制限を受けるので住宅等は建てられず、また農地等として適切な管理が求められる。

https://www.mlit.go.jp/common/001283503.pdf
(1、7ページ)

●対象となる農地を拡大し、積極的に生産緑地を指定

・三大都市圏の特定市が対象であるが、一般市町村の市街化区域内の農地においても対象となる。

https://www.mlit.go.jp/toshi/park/content/001362578.pdf

・2017年の生産緑地法の改正により、対象となる農地の面積は500㎡以上から、市区町村の条例により300㎡以上に引き下げが可能となり、対象が拡大。

https://www.mlit.go.jp/toshi/park/content/001362580.pdf

・生産緑地にしなかった市街化区域内の農地は激減しているが、生産緑地は微減で、緑地保全に貢献している。

https://www.mlit.go.jp/toshi/park/content/001362579.pdf

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生産緑地の2022年問題とは
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●生産緑地制度の制定から今年で30年

・生産緑地への指定がされてから、優遇や制限を受けるのは30年経過までと規定されている。

・生産緑地の約8割が1992年に指定を受けており、2022年に一斉に30年の期限を迎える。

https://www.mlit.go.jp/common/001282537.pdf
(3ページ)

●生産緑地が解除されると不動産市場は供給過多になるか

・建築制限を受けていたため開発行為ができなかったが、制限が解除されると一斉に宅地化が進む可能性がある。

・大量の宅地が新規に不動産市場に出回ることで、土地や不動産物件価格の下落が懸念される。

・自治体に対して買取りの要望が増え、緑地の保全のために購入するのであれば予算措置が必要になる。

・しかし相続税の猶予を受けている所有者は、指定解除すると相続税を金利分まで含めて遡って払う義務があり、売却するのは困難であるため、動きは限定的か。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO23859120U7A121C1PPE000

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特定生産緑地制度で、買取期限が延長可能に
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●法改正により指定を10年延長することが可能に

・2017年に生産緑地法が改正され、都市計画決定から30年が経過する前に特定生産緑地に指定できるようになった。

・特定生産緑地になると、買取りの申出が可能になる期日を10年延長できる。

・この10年が経過する前に改めて同意を得れば、繰り返し10年の延長ができる。

・特定生産緑地に指定されなかった生産緑地は、固定資産税の激変緩和措置を4年間うけることができる。

https://www.city.hirakata.osaka.jp/cmsfiles/contents/0000022/22518/siryou.pdf

●8割以上が特定生産緑地に指定される見込み

・2021年9月末時点で8割が指定済み、受付済み、意向ありと回答している。

・意向なしは7%で633haあり、三大都市圏で東京ドーム約130個分の土地が生産緑地から外れてしまう。

・未定・未把握が13%あり、動向が注目されるとともに、自治体による把握が急がれている。

https://www.mlit.go.jp/toshi/park/content/001423308.pdf
(2ページ)

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農地を活用した緑地保全の事例
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●区市の生産緑地買取や農業施設整備に補助金(東京都)

・生産緑地の所有者は、相続が発生した場合や指定が解除された時に、自治体に買取りの申出を行うことになっているが、交渉成立せずディベロッパーに売却される事例が多い。

・都は農林水産振興財団に基金を積み、区市が生産緑地を買い取った際に1/2を基金から補助することで区市の緑地購入を支援。

・区市が買い取った生産緑地に対し、農家の育成施設や福祉農園等の整備を行った場合、さらに整備費の4/5の補助を行う。

https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/nourin/020709_seiryoku_kaitori_pr.pdf

●身近に農を感じる場をつくる(神奈川県横浜市)

・横浜市は横浜みどりアップ計画の中で、市民が身近に農を感じる場をつくることを盛り込み、農地の保全に積極的に取り組んでいる。

・意欲ある農家や新規参入をする企業に、農地を長期貸し付ける場合、農地所有者に対し支援をしている。

・農地が遊休化しないよう、市が一時的に借り受けて復元し、利用希望者に貸し付けている。

https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/midori-koen/midori_up/kako/hokoku/h30-jisseki.files/0037_20190607.pdf
(3-44ページ)

・収穫体験農園、市民農園、農園付公園など、市民ニーズに合わせた農園を開設した。

・農業経営として農園の開設を望む農家も多く、農家のニーズにも応えている。

https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/midori-koen/midori_up/kako/hokoku/h30-jisseki.files/0037_20190607.pdf
(3-47ページ)

●低利用農地を活用し、都市型の農業公園へ(東京都府中市)

・農業振興計画の中で、2022年の生産緑地の指定解除問題に対して備える対策を検討することが明記されている。

・農地を残す施策として、生産緑地の再指定、追加指定を進める。

https://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/kekaku/kekaku/gyosei/nogyoshinko/fuchushi_nougyou_shinkou_plan.files/hyoushi_keikaku_urabyoushi.pdf
(27~28ページ)

・低利用農地を市民農園として、有効活用を目指す。

・生産緑地の買取り制度などで市有地となった農地を、農業公園として開設する。

https://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/kekaku/kekaku/gyosei/nogyoshinko/fuchushi_nougyou_shinkou_plan.files/hyoushi_keikaku_urabyoushi.pdf
(48~50ページ)

・西府町農業公園が設置され、農業とのふれあいの機会を提供するほか、「環境」「防災」「教育」「コミュニティ」などの多面的な役割を担う。

https://www.city.fuchu.tokyo.jp/kurashi/nogyonituite/nogyokoen/nisifucyounougyoukouenn.html

●パーク菜園による小規模都市公園の農的活用(埼玉県川越市)

・2017年度の国交省・農水省の委託事業として、パーク菜園を設置した。

・市内の都市公園内に、地域の方が花や野菜を育てる畑を設置した。

https://www.city.kawagoe.saitama.jp/kurashi/sports_koen/koen/koenseibiparksaien.html

・1区画3.3m×2.7mの菜園を貸し出し、利用者には菜園活動だけでなく公園の維持管理へも協力してもらう。

・国交省の調査では、コミュニティの活性化、公園の利用促進、維持管理の効率化などに成果があった。

・今後は利用者のいない公有地等への展開が想定されており、生産緑地を自治体が買い取った後に、菜園付き公園を設置するという選択肢が考えられる。

https://www.mlit.go.jp/common/001312200.pdf
(20~24、44、48ページ)

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チェックポイント詳細
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●特定生産緑地への移行支援

・特定生産緑地制度の周知はされているか。

・生産緑地の所有者に、意向調査はできているか。

・生産緑地の条件を満たしている農地へ追加指定を促しているか。

●自治体による生産緑地の買取り

・都道府県に生産緑地の買取りの際の支援制度はあるか。

・緑の基本計画などにおける緑地保全の目標と整合性は取れるか。

・緑地を減らさないために、買取り希望があった場合は積極的に購入してはどうか。

・緑地の購入のための予算や基金は準備されているか。

●遊休農地や自治体が買い取った農地の活用

・生産緑地を活用した市民農園など、身近な農業への施策を展開してはどうか。

・買い取った農地を市民農園や農業公園などに活用してはどうか。

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さらなる調査のためのリンク集
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都市と緑・農が共生するまちづくり優良取組事例集(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001341508.pdf

特定生産緑地指定の手続きを勧めるパンフレット作成(千葉県)
https://www.pref.chiba.lg.jp/annou/toshinougyou/documents/tokutei.pdf

都市農業をめぐる情勢と生産緑地制度について(JA全国農業協同組合中央会)
http://www.ja-youth.jp/pdf/seminar/20210215_seminar.pdf

調布市ふるさとのみどりと環境を守り育てる基金(東京都調布市)
https://www.city.chofu.tokyo.jp/www/contents/1361492886509/files/furusatonomidoritokankiyou.pdf

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