【街づくり】オガールプロジェクト〜公民連携で「稼げる公共施設」〜(事例研究)

<概要>

●補助金をもらって公共事業を始めると、自治体の初期投資は少なく済んでも、その後の維持管理費が負担になる

●岩手県紫波町では、民間企業が民間の金融機関や投資家から資金調達をして、図書館と店舗の複合施設を建設

●リスクを負う金融機関や投資家の厳しいチェックを受けながら、徹底的にコスト削減

●誘致したいテナントに支払える賃料を尋ねてから、その賃料でも黒字になるように施設全体を設計

●開発会社が定期借地料と固定資産税を町に払い、町はそのお金を図書館の運営費に充てる

●図書館の集客力が、回り回って図書館の運営費につながるので、図書館スタッフが次々とユニークな企画を展開

●他に日本初のバレーボール専用体育館や、小児科と病児保育を併設した保育所など

<チェックポイント>

●駅前再開発や複合施設の現状

●公民連携による塩漬け土地の開発

●公共施設を新設・建て替えする際の公民連携開発

<掲載事例>

●岩手県紫波町

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公民連携による地方創生のモデルケース
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●補助金による駅前再開発が失敗する理由

・補助金をもらって公共事業を始めると、自治体の負担額は少なく済んでも、事業全体の初期投資額は過大になる。

・公共施設の維持管理費は初期投資額の3~5倍と言われており、維持管理費には補助金が出ないために後々まで財政を圧迫する。

・高すぎる維持管理費を賄うためにテナント料も割高となり、集客が鈍ってくると撤退するテナントが出てくる。

・集客の核となっていた大型テナントが撤退すると、施設全体が空洞化して赤字となり、自治体が買い取って公共施設にする例も。

https://www.sbbit.jp/article/cont1/37016

●オガールプロジェクトとは

・岩手県紫波(しわ)町が庁舎移転のために28億円で購入し、駅前で塩漬けになっていた10.7ヘクタールの町有地を、公民連携の手法で開発。

・中核施設はショッピングセンターではなく、図書館とバレーボール専用体育館と広場。

・役所が補助金をもらってハコモノを建設する公共事業ではなく、民間企業が民間の金融機関や投資家から資金調達。

・「地方創生のモデルケース」と呼ばれ、全国1700自治体のうち半数近い800の自治体から視察を受け入れている。

https://ogal.info/project/seminar.php

・「オガール」とは「成長」を意味する紫波町の方言「おがる」と、フランス語の「Gare=駅」を組み合わせた造語。

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「稼げる公共施設」オガールプラザ
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●民間の金融機関や投資家にお金を出してもらえる事業にする

・行政が補助金で複合施設を作るのではなく、オガールプラザ株式会社が資金調達・設計・建設を行い、行政は公共部分だけを最後に買い取る形。
(公共部分に関しては、町が国からの補助金を受けている)

・民間の金融機関や投資家に融資・出資を募る形にすることで、「10年後には累積黒字にして配当を出す」という厳しいハードルが課された。

・同じ「民間の知恵を借りる」でも、単にコンサルタントの意見を聞きながら行政が設計するのではなく、
リスクを負う金融機関や投資家の厳しいチェックを受けながら設計したため、徹底的なコスト削減ができた。

http://www.mlit.go.jp/common/001094608.pdf
(16ページ)

●まずテナントを決めてからハコモノを設計する

・通常の公共事業では、まず大きくて豪華なハコモノを作ってからテナントを募集する。

・オガールプラザは、誘致したいテナントに支払える賃料を尋ねてから、その賃料でも黒字になるように施設全体を設計。

・建設前から入居率100%で、家賃に無理がないからテナントが撤退せずに長く借りてくれる。

・消費活動を目的としない訪問者を増やすため、中核施設は商業テナントではなく図書館にした。

・人が通う場所になれば、結果的には消費のパイが広がり、周辺テナントの売り上げも長く維持できる。

https://ogal.info/information/plaza#navi

●図書館が「自ら稼ぐ公共施設」に

・図書館に通う住民が、帰りに隣の店舗で飲食や買い物をして、テナント料がオガールプラザ株式会社に入る。

・オガールプラザ株式会社は定期借地料と固定資産税を町に払い、町はそのお金を図書館の運営費に充てている。

・図書館の集客力が、回り回って図書館の運営費につながるので、図書館スタッフは「農業支援サービス」など次々とユニークな企画を展開。

・紫波町の小学生が「図書館を使った調べる学習コンクール」で文部科学大臣賞を受賞し、
蔵書数10万冊の小さな図書館が、2016年には「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれる。

http://lib.town.shiwa.iwate.jp/topics/media/20161109_01.pdf

●計画段階から徹底的に住民を巻き込む

・最初に計画を発表した時は、地元紙に「黒船」と否定的に書かれ、「行政の責任放棄」という批判もあった。

・「町有地の持ち主は町民である」という哲学のもと、住民ニーズ調査から始まって、町長が住民説明会を100回も繰り返した。

・住民に「何が欲しいですか?」と尋ねると、既存の答えしか返ってこないので、「そこで何がしたいですか?」と尋ねる。

・住民の望む使い方ができる設計にした結果、現在は住民が様々なイベントを行う、非常に稼働率の高い施設と広場になっている。

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同様の手法で次々と完成する「尖った施設」
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●日本初のバレーボール専用体育館

・国際大会で正式採用されている樹脂の床材で作った、日本初のバレーボール専用体育館。

・野球は競技人口がバレーボールの8倍だが、野球場は全国に6千もあり、東京ドームや甲子園には敵わない。

・数は少なくても確実にいる利用者にターゲットを絞った結果、全国からプロチームが合宿に来るようになった。

https://pregamestraining.tokyo2020.jp/jp/module/camp/facilities/7ca0c760bf2edbbb1df0f80e4059ebd1

・併設した宿泊施設は駅から徒歩2分という立地で、合宿だけではなく平日のビジネス利用も。

https://ogal.info/ogal-inn/

●小児科と病児保育を併設した保育所

・保育園で体調が悪い子を小児科で診察し、病気だと分かれば病児保育室で預かることができる。

・保育園から小児科に連れて行くために、保護者が会社から戻ってくる必要がない。

https://ogal.info/information/center

・紫波町は現在、岩手県で唯一の待機児童が発生するほど子育て世代が集まって来ており、2020年には4つの保育所を作る予定。

●熱効率にこだわった集合住宅

・断熱を徹底して暖房効率を上げ、エアコン1台で空調できるワンルームにすることで光熱費を通常の半分に。

https://kurashista.com/life/ogalnest.php

・光熱費が安く済むため、周辺の家賃相場より高く設定しても満室になる。

・住宅設備は老朽化して陳腐化するが、断熱性能は簡単に劣化しないので、住宅の価格が高いまま維持される。

・他に、地元の間伐材を燃やして電気ではなく熱を役場や住宅に供給する、「地域熱供給システム」も整備している。

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チェックポイント詳細
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●駅前再開発や複合施設の現状

・これまでの再開発や複合施設について、初期投資額・補助金・維持管理費・年間収支はどうなっているか。

・テナントの賃料や入居率はどのように推移しているか。

・赤字や空洞化の場合は、どのようなテコ入れや再建策を考えているか。

●公民連携による塩漬け土地の開発

・何らかの理由で長期間使われていない土地はどの程度あるか。

・定期借地や売却で民間に新しい事業を始めてもらう可能性は無いか。

●公共施設を新設・建て替えする際の公民連携開発

・今後10年間で新設・建て替えを予定している公共施設は何か。

・補助金を使って行政が建設するのではなく、民間の融資・投資で建設することも検討してはどうか。

・公共施設を集客装置として、周辺に店舗を配置する「稼げる公共施設」の形で計画できないか。

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さらなる調査のためのリンク集
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紫波町公民連携基本計画
http://www.town.shiwa.iwate.jp/material/files/group/9/08888196.pdf

オガールプロジェクト公式サイト
https://ogal.info

「オガールプロジェクト」 補助金に頼らない新しい公民連携の未来予想図(HUFFPOST)
https://www.huffingtonpost.jp/2014/09/10/shiwa_n_5795002.html

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