<概要>
●日本の漁業・養殖業生産量は1984年をピークに減り続けている
●下水高度処理などで魚の栄養となる窒素が減りすぎたことが原因
●水域と季節によっては適切な栄養塩類の補給を行う必要
●下水道が能動的に水量・水質を管理し、望ましい水環境を創造する
●兵庫県は下水処理水の窒素濃度に下限基準を追加し、海の窒素濃度を保つ
●農業用ため池の水を抜いて栄養を海に流す「かいぼり」が各地で復活
<チェックポイント>
●漁獲高と水質の関係
●豊かな海をつくるための下水処理
●海の栄養不足に対する取り組み
<掲載事例>
●兵庫県
●佐賀県佐賀市
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漁獲高が減った理由は、水質浄化のしすぎ
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●減り続ける漁業・養殖業の国内生産
・日本の漁業・養殖業生産量は、1984年をピークに1995年にかけて急速に減少、その後は緩やかな減少傾向が続く。
・沖合漁業マイワシの漁獲量の減少によるもので、海洋環境の変動の影響を受けて資源量が減少したことが主因。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h30_h/trend/1/t1_3_2_1.html
・2020年の瀬戸内イカナゴ漁は、解禁初日の漁獲量がゼロで、「記憶にない」と漁業者の間に衝撃が広がった。
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202002/0013155080.shtml
・1983年に大阪府だけで78億円あった漁獲金額は2013年で31億円に。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASHD21H3A_S5A720C1960E00/
●原因は水質浄化のしすぎ
・下水高度処理などで魚の栄養となる窒素が減りすぎたことが、漁獲が減った原因として疑われている。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASHD21H3C_S5A720C1960E00/
・兵庫県水産技術センターは、「栄養塩」と呼ばれる窒素やリンの減少がイカナゴ減少の主因と突き止めた。
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202001/0013052559.shtml
・栄養塩の低下で、養殖ノリも茶色や赤色に色落ちして商品価値が無くなってしまう。
https://www.sankei.com/premium/news/200217/prm2002170006-n1.html
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国は下水道による水環境マネジメントを推進
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●豊かな海の確保に向けた下水道の取組
・下水道整備が進み、生活環境の改善、公共用水域の水質保全という点で、一定の効果は出た。
・一方で、冬季の栄養塩不足など、水域によっては適切な栄養塩類の補給を行う必要も。
・そのため、流域の関係主体が緊密に連携し、水域ごと、季節別の取り組みを推進。
https://www.env.go.jp/press/y0915-10/mat08.pdf
●きめ細かい水環境マネジメント(能動的水環境管理)の推進
・「健全な水環境の創造」は、2014年の新下水道ビジョンに掲げられた長期ビジョンの一つ。
・下水道が能動的に水量・水質を管理し、地域に望まれる水環境を創造する。
・瀬戸内海等の「豊かな海」が求められている水域では、窒素・リンの季節別運転を実施。
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000379.html
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海の栄養不足に対する各地の取り組み
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●水質基準の上乗せを撤廃し、下限値を追加(兵庫県)
・水質改善しすぎて漁獲量が減ったため、全国で初めて窒素濃度に下限基準を追加し、窒素濃度を保つ。
https://www.kobe-np.co.jp/news/keizai/201906/0012391196.shtml
・下水処理水の栄養塩濃度を高める際に、基準値を超えると罰則があるBOD値も上昇してしまう。
・そのため、県が独自に上乗せしたBOD基準を撤廃し、下水処理水の水質を季節ごとに調整しやすくした。
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201911/0012875074.shtml
●下水処理水や汚泥肥料を農業や漁業に還元して食と下水道を連携(佐賀県佐賀市)
・季節ごとに処理水を調整する季別運転により、海苔養殖漁場へ「宝の水」として栄養塩を供給。
・下水汚泥にYM菌や発酵副産物を混ぜて、「宝の肥料」として農業に提供。
・食と下水道が連携した「BISTRO下水道」として、食材を「じゅんかん育ち」と名付けてブランド化。
http://www.water.saga.saga.jp/main/5806.html
●「かいぼり」でため池の能力向上と漁獲量アップの一石二鳥(兵庫県)
・農業用ため池の水を全て抜き、栄養を海に流す「かいぼり」が各地で復活。
・ため池の水質や貯水能力を向上し、漁獲量をアップするため、補助金を1件20万円に倍増。
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201911/0012895597.shtml
●各地で行われている植林活動
・自然循環で有明海再生を 住民らクヌギ500本植樹(長崎県諫早市)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200322-00000007-nagasaki-l42
・「孫の代のため」 ホタテ養殖の漁師たちが植林(青森県むつ市)
https://www.asahi.com/articles/ASM4T5D3TM4TUBNB00L.html
・気仙沼の漁師たちが山に木を植え続けて30年(宮城県気仙沼市)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001726.000001719.html
・「森を育み、海を守る」北海道・野付の大地で植樹1万本!(北海道)
https://kokocara.pal-system.co.jp/2018/09/10/growing-forest-notuke/
●エビやナマコの稚子を放流して、海の栄養不足を解消(兵庫県)
・海中の有機物をエビやナマコの稚子に分解させて、魚介の栄養分となる窒素の濃度を高める狙い。
・20年度は稚子の生産技術開発に着手し、2023年度にも放流の事業化を目指す。
https://www.kobe-np.co.jp/news/keizai/202003/0013180597.shtml
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チェックポイント詳細
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●漁獲高と水質の関係
・種類別の漁獲高はどのように推移しているか。
・赤潮の発生件数や水質はどのように推移しているか。
・窒素やリンなど栄養塩の濃度はどのように推移しているか。
・漁獲高と海域の水質に相関関係はあるか。
●豊かな海をつくるための下水処理
・下水の高度処理は行っているか。
・自治体独自の水質基準を設けているか。
・自治体の水域は汚濁と栄養不足のどちらが課題か。
・季節別に下水処理を調節しているか。
●海の栄養不足に対する取り組み
・ため池の水を抜いて栄養を海に流す「かいぼり」を推進してはどうか。
・水産資源を育てるための植林を支援してはどうか。
・有機物を窒素に分解する微生物の放流は考えられないか。
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さらなる調査のためのリンク集
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下水放流水に含まれる栄養塩類の能動的管理のための運転方法に係る手順書(国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/common/001105123.pdf
栄養塩類の循環バランスに配慮した運転管理ナレッジに関する事例集(国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/common/001033458.pdf
瀬戸内海の貧栄養化について(兵庫県 水産技術センター)
http://hyogo-nourinsuisangc.jp/15-one/one_2709.html