【教育】全員担任制や教科担任制など「チーム学校」による教育(事例研究)

<概要>
●新しい学習指導要領で、アクティブ・ラーニングやプログラミング教育、小学校英語などが追加された
●いじめ、不登校、特別支援教育、外国人児童生徒など、学校の抱える課題が複雑化・多様化
●国は「次世代の学校・地域」創生プランで「チーム学校」を目指し、教職員定数を増強
●一つの学級に決まった学級担任を一人配置することを義務づける法律は無い
●東京都千代田区の麹町中学や富山県南砺市は、学年の教員全員で全てのクラスを担任する「全員担任制」を導入
●同じ学年の教員同士で得意な授業を交換する、疑似的な教科担任制も行われている
<チェックポイント>
●専門家や学校事務職員も含めた「チーム学校」の推進
●複数の担任による学級運営
●教科担任制の柔軟な実施
<掲載事例>
●兵庫県
●東京都千代田区、富山県南砺市、茨城県取手市
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新しい学習指導要領が求めるチーム教育
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●もはや一人の教師では対応できない教育課題
・小学校は2020年度から、中学校は2021年度から、新しい学習指導要領がスタートする。
・アクティブ・ラーニングやプログラミング教育、小学校英語など、新たな教育内容が追加されている。
・いじめ・不登校などの生徒指導上の課題や特別支援教育の充実への対応など、学校の抱える課題が複雑化・多様化している。
・教科や学年を越えて、学校全体でカリキュラム(教育課程)や組織運営の改善を続けることが重要。
(23ページ)
●学級担任制にこだわらない柔軟な教員配置
・義務標準法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)に従い、
1学年の生徒数でその学年の学級数が決まり、学級数に応じて教員の定数が決まる。
・学級数と教員の定数は法律で決まるが、一つの学級に必ず一人決まった学級担任を配置しなければならないという法律は無い。
・教員の配置は学校の裁量で、一つの学級に複数の担任を置く「複数担任制」、学級の担任ではなく教科の担任を置く「教科担任制」、
複数の教師が複数の学級を順番に(あるいは同時に)担任する「全員担任制」など、様々な工夫ができる。
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チーム教育をめぐる国の動き
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●「チーム学校」答申と「次世代の学校・地域」創生プラン
・中央教育審議会が2015年12月に「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」を答申。
・専門性に基づくチーム体制の構築、学校のマネジメント機能の強化、教員一人一人が力を発揮できる環境の整備、の3本柱。
・答申を受けて発表された「次世代の学校・地域」創生プランにおいて、「チーム学校に必要な指導体制の整備」が柱の一つに。
●「次世代の学校」指導体制実現構想と義務標準法の改正
・文部科学省の2017年度予算概算要求で、教職員定数の改善案が「次世代の学校」指導体制実現構想として提示された。
・次の3点を目的とした、教職員の定数改善の10ヶ年計画。
①外国語・理科・体育などの小学校専科と、アクティブ・ラーニングの充実
②特別支援教育や外国人生徒の指導充実、いじめ・不登校などの未然防止
③「チーム学校」の実現に向けた次世代の学校指導体制の基盤整備など
・「次世代の学校」指導体制実現構想を実現するために、2017年通常国会で義務標準法が改正され、教職員定数も改善された。
●教科担任制の拡大
・2019年4月には文科省が「新しい時代の初等中等教育のあり方について」諮問。
・「児童生徒の発達の段階に応じた学級担任制と教科担任制の在り方」の検討を開始。
・現在、小学5〜6年生の音楽と理科は5割前後が教科担任制となっているが、国語や算数は数%にとどまっている。
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教員が連携したチーム教育の事例
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※「チーム学校」は外部専門家や事務職員との連携を含んだ考え方だが、本稿では教員同士の連携に絞って事例を紹介する。
●いち早く全員担任制にした麹町中学(東京都千代田区)
・学年で6人の教員と2人の非常勤講師が4つのクラスの運営に関わり、例えば学級活動や道徳は2人体制で各クラスへ出向いている。
・複数の先生が全ての学級を回ることで、教員の個人差による学級格差を無くし、学級崩壊のリスクを下げる。
・生徒たちにとっては、幅広い教員と関わりを持ち、価値観を広げられるメリットがあり、三者面談は保護者と生徒が教員を指名する形で行っている。
・どの学年も週に1回会議を行い、日常的に情報共有を図っているため、「全員担任制にして、逆にコミュニケーションが劇的に良くなった」との声も。
●市内全ての小中学校でチーム指導を導入(富山県南砺市)
・南砺市教委は2019年9月30日、全ての市立小中学校17校で、従来の「1学級1担任」の体制を見直し、
複数の教員が学年全体や2つの学年を指導する「チーム指導」の導入を決定。
・各科目や特別活動をそれぞれ得意な教員が中心となって実施することで、授業の質の向上を図るほか、
若手教員が業務を通じてベテランから学ぶOJT(職場内訓練)につなげる。
・授業の準備にかかる教員の負担を軽減したり、朝礼を担当しない教員は2校時から出勤できるようにして、教員の長時間勤務の解消を図る。
・学年をまたいで合同指導する教科は、学習指導要領が2年間での履修を示す図工や音楽など。
・教室の広さや各学級の人数といった学校の実態に応じて柔軟に対応し、教員数の増減はない。
●いじめ自殺の再発防止策で全員担任制を提案(茨城県取手市)
・市立中学3年生の女子がいじめで自殺した問題を受けて、「市いじめ問題専門委員会」が2019年10月に再発防止策の素案をまとめた。
・担任一人で対応できなかったことを踏まえ、「全員担任制」や「複数担任制」など、複数の教員で生徒を見る制度の導入を求めている。
・生徒の悩みや課題などの情報を教員同士で情報共有するため、「教育相談部会」を定期的に開くことも提案。
●同じ学年の教員同士で得意な授業を交換する、兵庫型教科担任制(兵庫県)
・小学校5〜6年生の国語・算数・理科・社会のうち2教科以上を選んで、学級担任同士で交換授業を行う疑似的な教科担任制を2009年から実施。
・さらに算数や理科では加配教員を配置して少人数授業を実現。
・「教えてもらう先生が変わって授業が楽しい」「学級担任以外の先生に気軽に話ができる」と答えた子どもが8割。
・教科担任制を基本とする中学校の授業に慣れることにつながり、中学校に進学した時の不登校が減る。
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チェックポイント詳細
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●「チーム学校」の推進
・学校全体でカリキュラム(教育課程)や組織運営の改善を続ける体制を、どのように作っているか。
・義務標準法の改正で基礎定数化された、発達障害の生徒の通級指導や外国人児童生徒教育をどのように進めて行くか。
・教員と心理・福祉専門スタッフとの連携や役割分担をどのように進めて行くか。
・教員と学校事務職員との連携や役割分担をどのように進めて行くか。
●複数の担任による学級運営
・自治体内で複数担任制・全員担任制を導入している学校は、それぞれ何校ずつあるか。
・複数担任制・全員担任制を導入しない学校には、どのような理由や原因があるか。
・複数担任制・全員担任制を、自治体全体で積極的に進めてはどうか。
●教科担任制の柔軟な実施
・現在、小学校で教科担任制を実施している学校は、各学年の各教科ごとに何%ずつか。
・教科担任ではなく学級担任が教えている割合の高い教科について、教科担任制に移行しない理由は何か。
・同じ学年の教員同士で得意な授業を交換する、疑似的な教科担任制から取り組みを始めてはどうか。
・教科担任制を基本とする中学校の授業との連携や接続について、どのように考えているか。
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さらなる調査のためのリンク集
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平成29・30年改訂 学習指導要領、解説等(文部科学省)
次世代の学校指導体制の在り方について(文部科学省)
「少人数指導・少人数学級の効果に関する調査研究」調査研究報告書(国立教育政策研究所)
教科分担制を伴うチーム学年経営の教科推進事業(横浜市教育委員会)

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