<概要>
●2018年4月より国民健康保険会計が都道府県単位に広域化
●国は「赤字補てんのための繰入金」に厳しく対処する方針で、保険料の引き上げも必要に
●国民健康保険の加入者は年金生活者や非正規雇用者が多く、運営が厳しい
●繰り入れ金や基金の取り崩し、所得階層別の保険料負担など論点は多岐にわたる
●歳出削減のためには「医療費の削減策」、歳入増加のためには「滞納問題」への対応が有効
●国民健康保険データの分析で、死亡率や医療費の伸びを抑えることに成功した自治体も
<チェックポイント>
●都道府県広域化の検証と納付金の妥当性
●繰り入れ金や基金などによる保険料の抑制
●歳出削減と歳入増対策
<掲載事例>
●富山県
●兵庫県尼崎市
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都道府県単位に広域化した国民健康保険会計
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●2018年4月より都道府県も国民健康保険の保険者に
・国民健康保険が都道府県単位になっても、保険料は市町村ごとに異なる。
・都道府県は医療費給付額を基準に各自治体の納付金を決めて請求。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000194118.pdf
・各自治体は、納付金の必要額を保険料と各自治体からの繰入金でまかなう。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000194119.pdf
(13ページ)
●赤字の市町村は保険料アップが求められる
・繰入金には「法律で定められた繰入金」と「それ以外の繰入金」の2種類がある。
・厚生労働省は「赤字補てんのための繰入金」に厳しく対処する方針。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/committee/20190528/shiryou1_3.pdf
・赤字補填の繰り入れ金を無くすために、保険料を引き上げる自治体も。
http://www.city.okayama.jp/contents/000328222.pdf
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国民健康保険料をめぐる論点
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●保険の構成員が経済弱者に偏っている
・無職世帯(主に年金受給者)や被用者(非正規雇用者等)の割合が増加。
・加入者平均所得も1世帯あたり140万円(2015)と他の保険の半分以下。
https://www.kokuho.or.jp/improvement/lib/310304_2125_kikaku01.pdf
(6〜8ページ)
・低所得者には7割減免や3割減免が導入されているが、無収入でも保険料は支払う必要がある。
●保険料抑制のための一般会計からの繰入金をどう考えるか
・経済弱者が多い保険となっているので、一般会計からの繰入は不可欠。
・一般会計からの繰入金には厚生労働省などから抑制方針も。
・他の保険者(協会けんぽなど)からの支援金もあり、税が投入されていない他の保険者との公平性の指摘も。
http://www.kikaikinzoku-kenpo.or.jp/member/outline/system04.html
●基金の取り崩しによる保険料抑制も議論に
・会計内に基金を設けているが、額の妥当性は常に議論になる。
・基金を取り崩せば、単年度の保険料は抑制できる。
・ただし、基金が少なくなると年度ごとの歳入や歳出の変動に備えられない。
●保険料は所得による応能負担と世帯・個人単位の応益負担どちらを重視するか
・保険料算定には「所得割」「平等割」「均等割」がある。
・高所得者が多く負担する所得割は、支払い能力に応じた応能負担。
・他に、資産額に応じて保険料が増える資産割も応能負担だが、採用している自治体は少数。
・世帯単位で同額の保険料を払う平等割や、個人単位で同額の保険料を払う均等割は、健康保険の受益者に均一に負担を求める応益負担。
・どちらかというと所得による負担の割合を下げ、サービスを受ける平等性を重視する考えが強くなっている。
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歳出を減らし歳入を増やす方策
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●歳出削減のためには「医療費の削減策」が有効
(1)医療費請求の過誤・不正をチェックする診療報酬明細書(レセプト)点検
(2)診療報酬明細書(レセプト)分析と検診受診率の向上をめざす政策
(3)予防医療の向上策
(4)ジェネリック(安価な特許切れ)薬品の使用推奨
・これらの先進策には奨励金的に補助金(保険者努力支援制度)が存在する。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000194119.pdf
(17〜20ページ)
●歳入増加のためには「滞納問題」への対応が有効
・強制力のある公債権であるので「財産調査」「差し押さえ」ができる。
・一方で「払いたくても払えない層」は相談に応じて、公正な判断の上での債権放棄も。
・分割納付利子の減免や失業者への免除規定などの活用で、保険料を払いやすくなる環境づくりも重要。
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kurashi/tetsuzuki/kokuho/kokuhoryokinn/keigen_hijihatsu.html
・納付への武器として、有効期限を切る短期保険証や、後払いの資格証明書が制度化されているが、
対象者とのコミュニケーションや発行条件など慎重に適用する必要がある。
http://www.city.kita.tokyo.jp/kokuhonenkin/kurashi/hoken/kokuminnhoken/nofu/shiharai.html
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自治体の取り組み事例
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●医療費削減の先進例 生活習慣改善ヘルスアップ事業(富山県)
・特定保健指導対象者や糖尿病予備群の方を「健康合宿」(座学、体力測定、運動実践など)で糖尿病の重症化予防。
・合宿から3ヶ月後のアンケートでも、体重や腹囲はマイナスを維持しているが、参加者一人あたりの事業費が高いのが課題。
http://www.nga.gr.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/2/20181109-01-3sashikae1-3.pdf
(5ページ)
●医療費の分析から予防医療策を充実(兵庫県尼崎市)
・国に先んじて医療費分析から生活習慣病対策を全庁横断的に実施、健康寿命を延伸して医療費適正化へ。
http://www.city.amagasaki.hyogo.jp/kurashi/kokuho/1001886/1002939.html
・高額医療費の疾病の8割を占める脳梗塞や心筋梗塞など血管病の対策を進めた結果、血管病による死亡率や医療費の伸び率が国・県の平均を下回るように。
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チェックポイント詳細
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●都道府県広域化の検証と納付金の妥当性
・都道府県からどのような水準の納付金が請求されているか。
・国民健康保険の決算は赤字か黒字か、保険料は引き上げが必要か取りすぎか。
・都道府県の国民健康保険運営協議会ではどのような議論が行われているか。
岡山県の国民健康組合運営方針の例
http://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/608697_5103906_misc.pdf
●繰り入れ金や基金などによる保険料の抑制
・所得階層別の保険料や加入者数はどうなっているか。
・一般会計からの繰入基準と金額(特に法定外繰入)はどうなっているか。他の自治体との比較はどうか。
・基金の積立水準や取り崩し額は妥当か。
・低所得者層の保険料や、上限に近い中所得者層の保険料など、所得階層別の保険料負担カーブをどう考えるか。
●歳出削減と歳入増対策
・予防医療の実施、検診の受診率と向上策、ジェネリック薬品使用推奨など、医療費削減策を実施しているか。
・医療費削減策へのインセンティブとして設けられた保険者努力支援制度の利用状況はどうか。
・不納欠損の内容確認、短期証明書・資格証明書の発行状況や発行にいたる過程の検証など、滞納問題への対応はどうか。
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さらなる調査のためのリンク集
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先進事例等の全国展開や見える化の推進・充実に向けて(内閣府)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon//kaigi/special/reform/committee/20181219/shiryou1_1.pdf
平成28年度 市町村国民健康保険における 保険料の地域差分析
https://www.mhlw.go.jp/content/hokenryo_h28.pdf
平成31年度国保組合保険者インセンティブの評価指標について
https://www.kokuho.or.jp/whlw/notice/lib/kokuhoka_2114_07-3.pdf