【財政】統一的な基準に基づく財務書類の徹底活用(政策アイディア)

<概要>

●全国の自治体が、平成28年度決算から総務省の統一的な基準に基づく財務書類を作成・公表している

●本来の目的である財務書類の活用までは至らない自治体が多い

●先ずは将来世代に残す資産や負債、財政の持続可能性や行政コストの指標をチェック

●公共施設の更新時期を計算して戦略的な施設管理につなげる

●住民や議会への説明責任を果たすため、グラフなど分かりやすい資料が必要

<チェックポイント>

●住民一人あたりの資産や負債は類似団体と比べてどうか

●財政に持続可能性があるか

●行政コストは適正な水準か

●公共施設の更新費用のピークと対応策

●グラフ化など住民や議会に分かりやすい説明資料

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統一的な基準による地方公会計
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・総務省は地方財政の一層の透明化を図るため、全国の地方公共団体に企業会計的手法を取り入れた財務書類の整備を求めてきた。

・発生主義会計でストック・フロー情報を総体的・一覧的に把握することにより、現金主義会計を補完する。

総務省|地方財政の分析|地方公会計の整備
http://www.soumu.go.jp/iken/kokaikei/index.html

・国の要請を踏まえ全国の地方公共団体が、平成28年度決算から総務省の「統一的な基準」に基づく財務書類を作成公表している。

・現在ほぼ全ての自治体が、統一的な基準に基づく財務書類と固定資産台帳の整備を終えたところ。

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作成された財務書類の活用はこれから
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・自治体の財務書類の作成自体は着実に進んでいるが、本来の目的である財務書類の活用にまでは至っていないこと多い。

・住民が関心をもって閲覧し、かつ内容をきちんと理解できる財務書類をいかに提供していくかが課題となる。

・行政内部に財務書類を活用できる人材や人的余裕が少ないという課題もある。

・施設別・業務別の行政コスト計算書を作成している自治体は3.2%、固定資産台帳と合わせて公共施設の適正管理に活用している自治体は4.4%

平成30年度 統一的な基準による財務書類の作成状況と活用状況
http://www.soumu.go.jp/main_content/000624357.pdf

・多くの自治体の財務書類が出揃う平成28年度より前の自治体比較や、経年変化の分析は難しい。

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各種指標による財務分析
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●将来世代にどれぐらい資産を残せるか

・資産額を人口で割った「住民一人あたり資産額」を類似の自治体で比較する。

・道路、福祉、教育など行政目的別に有形固定資産の割合を計算し、行政分野ごとの社会資本を類似団体と比較し、今後の資産整備の方向性を検討する。

・固定資産の減価償却の累計額を取得価格で割ると、耐用年数に対してどれだけ年数が経過しているかの「資産老朽化比率」が分かる。
固定資産台帳を活用すれば、行政目的別や施設別の老朽化比率も計算できる。

●将来世代と現役世代の負担割合は適切か

・「純資産比率」が減っていれば、現役世代が資源を消費して将来世代に負担を先送りしている状態。

・社会資本のうち、将来に償還が必要な負債によって形成した割合を計算すると、「将来世代負担比率」が分かる。

●財政に持続可能性があるか

・負債額を人口で割った「住民一人あたり負債額」を類似の自治体で比較する。

・支払利息を除いた業務活動収支と投資活動収支を合算することで、借金による収入と返済を除いた「基礎的財政収支」が分かる。

・実質債務が業務活動収支の黒字の何年分あるかで、債務償還能力を示す「債務償還可能年数」が分かる。

●行政にかかるコストは適正か

・行政コスト計算書の行政コストを人口で割った「住民一人あたり行政コスト」を類似の自治体で比較する。
さらに人件費・物件費などの性質別や、福祉・教育などの目的別に行政コストを分析できる。

・行政コストを税収等の一般財源で割ると、税収等が資産形成を伴わない行政コストに消費された割合となり、資産形成の余裕度が分かる。

・行政コスト計算書の経常収益は使用量・手数料など受益者負担の総額であり、これを経常費用で割ることで「受益者負担率」が分かる。

総務省「財務書類等活用の手引き」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000436184.pdf
(9ページ)

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公共施設等の適正管理
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・「今ある全ての施設を耐用年数の終了時に再調達価格で更新する」と仮定して、将来の年度ごとの施設更新費用を推計する。

・多額の施設更新費用がかかる年が見えるので、施設ごとに更新時期をずらしたり、長寿命化や統廃合を組み合わせて、更新費用の平準化を行う。

・これらの情報を公共施設等総合管理計画や個別施設計画に反映させる。

・あくまで法定耐用年数に基づく概算なので、実際の老朽化対策は現場の損耗状態や過去の修繕履歴を踏まえて行う。

・施設の統廃合を行う際には、施設ごとの行政コスト計算書やバランスシートを活用して、施設のコストと将来展望を比較する。

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住民や議会への説明資料
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・自治体は財務状況についての説明責任を、納税者・住民とその代表である議会に対して果たさなければならない。

・会計情報の受け手は、地方財政や会計に詳しいとは限らないので、用語の説明やグラフ化など分かりやすくする工夫が必須。

http://www.city.kobe.lg.jp/information/about/financial/zaisei/29.pdf

・バランスシートを棒グラフにすると、金額が大きければ棒グラフの面積も大きくなるので経営規模や財務の状況が視覚的に把握しやすくなる。

https://www.city.osaka.lg.jp/kaikei/page/0000447741.html
(ページの1/3付近の、[参考]世代間負担のイメージ図が、貸借対照表をグラフ化した場合に近い表現)

・京都市の貸借対照表をグラフ化すると、将来世代の負担となる負債の割合が大きいことが読み取れる。

H28年度末政令4市連結バランスシートのグラフ化
https://policy-making.com/db/wp-content/uploads/2019/09/b16f11229604ceb43ee2178b9706e153.pdf

・さらにグラフを経年比較すると、経営規模の傾向(拡大・縮小)、経営状況(好転・悪化)などが把握できる。

H21~27度末神戸市連結バランスシートのグラフ化
https://policy-making.com/db/wp-content/uploads/2019/09/cc912a7413742705dd3a83362b5c6016.pdf

・公営企業、外郭団体などのバランスシートをはじめとする財務諸表がグラフ化され、経年比較や他都市との比較などができるようになると、
様々な課題が浮き彫りになり、納税者・投資家の関心がより高まり、議会での議論がさらに活発になる。

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投資家や民間企業への情報開示
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・地方債の借入先が多様化する中で、共同発行市場公募債や住民参加型市場公募債など、市場公募資金の割合は平成29年に32.8%と過去最大。

http://www.soumu.go.jp/main_content/000483067.pdf

・財務書類を投資家向けIR説明会の資料にすることで、地方債の信用力を維持・強化できる。

・民間の資金とノウハウを使って公共施設の整備・運営を行うPPPやPFIは、全国で現在666件行われており、契約総額は5兆8千億円。

https://www8.cao.go.jp/pfi/pfi_jouhou/pfi_genjou/pdf/pfi_genjyou.pdf
(4ページ)

・財務書類の活用によって、公共施設の運営コストや更新費用が明らかになり、PPPやPFIはさらに増えていく。

・固定資産台帳に施設の利用状況や運営コストを付け加えて、民間企業に情報開示することによって、より良い事業提案が得られる。

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チェックポイント詳細
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●財務指標による財政状況の分析

・資産額を人口で割った「住民一人あたり資産額」は類似団体と比べてどうか。
道路、福祉、教育など行政目的別に有形固定資産の割合は、類似団体と比べてどのような傾向があるか。

・「純資産比率」が減って、将来世代に負担を先送りする形になっていないか。

・社会資本のうち、将来に償還が必要な負債によって形成した割合である「将来世代負担比率」はどうなっているか。

・負債額を人口で割った「住民一人あたり負債額」は類似団体と比べてどうか。

・借金による収入と返済を除いた「基礎的財政収支」や、債務償還能力を示す「債務償還可能年数」はどうなっているか。

・行政コストを人口で割った「住民一人あたり行政コスト」は類似団体と比べてどうか。
さらに人件費・物件費などの性質別や、福祉・教育などの目的別の行政コストは、類似団体と比べてどのような傾向があるか。

●公共施設の戦略的な管理

・固定資産台帳を活用して、行政目的別や施設別の老朽化比率を算出しているか。

・「今ある全ての施設を耐用年数の終了時に再調達価格で更新する」と仮定して、将来の年度ごとの施設更新費用を推計してはどうか。

・これらの情報を公共施設等総合管理計画や個別施設計画に反映させ、
施設ごとに更新時期をずらしたり、長寿命化や統廃合を組み合わせて、更新費用の平準化を行うべきではないか。

●分かりやすい財務書類の作成

・施設別・業務別の行政コスト計算書を作成しているか。

・住民や議会に分かりやすい、グラフ化した財務書類を作成しているか。

・住民一人あたり資産額や負債額の経年変化や類似団体比較を、財務書類に分かりやすく表示しているか。

・財務書類を投資家向けIR説明会の資料にしたり、固定資産台帳に施設の利用状況や運営コストを付け加えて公共施設のPFIに活用する考えはあるか。

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さらなる調査のためのリンク集
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地方公会計の活用の促進に関する研究会報告書 – 総務省
http://www.soumu.go.jp/main_content/000559610.pdf

地方公会計の財務書類(解説)-整備スケジュールと財務書類の見方-
http://www.soumu.go.jp/main_content/000543142.pdf

地方公会計制度とその改革~その2 地方公会計制度改革の経緯と課題~経済研究部 研究員 神戸 雄堂
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=58200?site=nli

有形固定資産減価償却率 – 経営分析のススメ
https://www.keieibunseki.com/seisan/index31.html

財務分析はグラフ化して考えよう!エクセルで傾向や問題を視覚化
https://availability89.com/stock-market/tool/graph/

B/Sグラフ(貸借対照表グラフ)をExcelでつくる方法。区分別・科目別B/Sグラフのバリエーション。
https://www.ex-it-blog.com/Excel-BS-GRAPH

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