【街づくり】人口減と高齢化で加速する自治体のオープン化(社会・技術動向)

<概要>

●今後、都市への人口集中は加速する

●人口減少・高齢化とあいまって地方自治体の生産性向上は待ったなし

●地方自治体の総合百貨店時代は終わりを告げ、水平分業によるオープン化へ向かう

●テクノロジーの進歩により公共の担い手は一気に多様化する

<チェックポイント>

●人口減少時代における公共サービスの維持について

●公共サービスのアウトソース化と、自治体のオープン化について

●テクノロジーを活用した、自治体経営の生産性向上について

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人口減少と都市化
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●人口が増える自治体と減る自治体

・本格的な人口減少社会が到来している日本。
国立社会保障・人口問題研究所が2018年3月に発表した予測によると、ほとんどの道府県は人口を減らし、一部の都県だけが人口が増える。

http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/1kouhyo/yoshi.pdf

・中でも東京都は数年前に予測されていた人口トレンドをくつがえし、2030年まで人口が増加する見込みである。
これはつまり、多くの人々が東京を中心とする大都市で生活するために移動する、いわゆる都市化が従来の予測を超えて急速に進行していることを示す。

・そして、その進行の度合いはまだら模様で、東京都内でも人口を集め続ける自治体と、あっという間に人口を失っていく自治体に分かれていくだろう。

●地方の行政サービスは維持できない

・この国は長く、都市部が生み出す富によって地方を支える社会システムを採ってきたが、都市部と地方の生産性の格差は大きく開いている。
内閣府まち・ひと・しごと創生本部が2015年に示した資料によると、都市部とそうでない地域の生産性は2倍ほど違うとされている。

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部、地域しごと創生会議第一回会議資料(6ページ)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/chiiki_shigoto/h27-11-17-siryou3.pdf

・この差は今後、ますます広がっていき、都市部が地方を支えるモデルそのものが非効率なものになっていく。
今は当たり前に享受している全国共通のユニバーサルな行政サービスの維持は、そう遠くない将来難しくなっていく。

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自治体のオープン化が始まる
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●自治体経営の生産性が問われる
 
・少子化と高齢化によって、人口をどんどんと失っていく自治体が今のまま、すべての公共サービスを維持するのは現実的ではない。
なぜなら、少子化によって担税力の高い生産年齢人口が減っていくからだ。これにより、税収は減少トレンドとなる。

・加えて、高齢者の人口が増えることで、医療費など社会保障費が膨れ上がっていく。
30年前の1980年代には30兆〜40兆円だった社会保障給付費も、気づけば100兆円を超えている。

・市町村の行政運営が厳しさを増していくのは必至だ。これから起きる大きな変化は、地方自治体による経営の生産性向上である。

国立社会保障・人口問題研究所
http://www.ipss.go.jp/site-ad/index_Japanese/security.asp

酒田市財源不足38億円、来年度予算、市長「人件費削減も」
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201906/20190614_51001.html

●公共サービスのアウトソース化

・これから地方自治体は本格的な「選択と集中」の時代に突入するだろう。

・従来のように、1つの自治体があらゆる公共サービスを提供する総合百貨店のようなやり方を改め、
外部に頼るものは外部に頼っていくやり方に切り替えていく必要がある。
「隣接する地方自治体と行政サービスをシェア」したり、あるいは「民間企業が提供するサービスを利用」するといった、サービスのアウトソース化である。

・従来の総合百貨店のやり方を「垂直統合型」とすれば、サービスや業務のアウトソースは「水平分業型」と定義できる。
かつてIT業界で起きた産業構造の変化になぞらえれば、「自治体のオープン化」と言い換えてもいい。

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公共からパブリックへ
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●公共の担い手が多様化する

・自治体のオープン化は、公共の意味を変えていく。これまでは「公共=行政」だった。
公共の担い手が多様化するこれからは「公共=企業」であり、「公共=行政」であり、「公共=NPO」となる。

・公共の担い手の多様化は必然、それぞれに変革をもたらす。
まず企業には、これまで以上に強く「公共性」が求められ、行政には「経営の視点」が求められる。
それはつまり、財政的な持続可能性の視点を持つということだ。

●自治体は総合百貨店から専門店へ

・総合百貨店でやってきた地方自治体にとって、行政サービスのうち、どの部分を引き続き自前でやるのか、
どの部分をアウトソースしていくのか、そのポートフォリオの巧拙が自治体のすう勢に大きく影響するだろう。

・これは何も地方自治体が滅んでいく、ということではない。地方には地方の生産性を高める方法があるはずだ。

・人口が減ることで、これまでなかなか進まなかった土地の集約が進む可能性はあるし、
労働集約型の、資本集約型の社会へと舵を切ることも可能だ。

・世界を見渡せば、このやり方で国の生産性を劇的に挙げた国としてオランダなどが例に挙がる。

・これから起きるであろう社会の変化に即応できる自治体と、できない自治体の差がはっきりと現れるのがこれからの日本だ。
地方自治体のトップが自治体経営のマインドセットを持っているか否かが、帰趨を決める。

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テクノロジーが地方の変化を支える
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●次世代移動通信「5G」で本格的なIoT時代へ

・そして、都市や地方の変化を支えるのがテクノロジーだ。インターネットが発達し、通信もいよいよ5Gの時代を迎える。
あらゆるものがインターネットにつながる、本格的なIoT(モノのインターネット)時代の到来だ。

・IoTの時代には、ビッグデータの活用で、医療や交通といった社会インフラから、
観光やスポーツ・農業・漁業といった様々な産業に至るまで、すべての効率が上がっていく。

・その恩恵を受けるのは都市部だけでなく、地方には地方に合った生産性の向上が実現していくだろう。

5Gの衝撃、加速する破壊と創造(日経BP社×KDDI)
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/19/5G_IMPACT/

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チェックポイント詳細
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●人口減少時代における公共サービスの維持について

・人口と税収がどれぐらい減るか、中長期的な見通しを持っているか。

・その際に公共サービスが維持できるか。できない場合はどうするつもりか。

・周辺地域に比べて、人口と税収の減少に歯止めをかけるための方策はあるか。

●公共サービスのアウトソース化と、自治体のオープン化について

・公共サービスを提供する担い手を、企業やNPOに広げるべきではないか。

・行政が担う分野とアウトソースする分野の切り分けをどう考えるか。

・切り分けの前提として、地域特性や強みを生かした自治体経営戦略が必要ではないか。

●テクノロジーを活用した、自治体経営の生産性向上について

・次世代移動通信「5G」を使った公共サービスの効率化は考えられないか。

・次世代移動通信「5G」を使った官民連携の方法は考えられないか。

・最新のテクノロジーを使った自治体向けサービスの導入可能性を、定期的・網羅的に検討する機会はあるか。

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さらなる調査のためのリンク集
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国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/t-page.asp

総務省「平成31年版地方財政白書」
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zaisei07_02000205.html

内閣府「インフラの維持補修・更新費の中長期展望」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0329/shiryo_03.pdf

国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来予測」
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html

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特別寄稿:伊藤大貴(株式会社Public dots & Company 代表・前横浜市会議員)

株式会社Public dots & Companyは2019年5月15日に元地方議員、現職地方議員が中心となって立ち上げた、公共戦略コミュニケーションを支援する会社です。
パブリックマインドとビジネスマインドを有した人材を地方議員の中から発掘し、企業とマッチングすることで、プロジェクトを成功へ導きます。企業プロジェクトへの参画にご関心のある方は、info@publicdots.comまで。

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